さかしま劇場

つれづれグランギニョル

ミュージカル『少女革命ウテナ』で革命されてきた

 7月3日(水)、後楽園のシアターGロッソでミュージカル「少女革命ウテナ ~深く綻(ほころ)ぶ黒薔薇の~」を観てきました。

 近年話題の、漫画やゲームを原作に置いた、いわゆる「2.5次元ミュージカル」です。有名どころでいうと、ブームの走りとなったテニミュ(漫画『テニスの王子様』のミュージカル舞台)や、2019年の紅白歌合戦に出演者が登場した刀ミュブラウザゲーム刀剣乱舞』のミュージカル舞台)などが浮かびますが、ああいう雰囲気を想像してもらえればイイと思います。

 (面倒くさいことをいうと「2.5次元ミュージカル」は一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会が管理する登録商標なので、制作会社がポリゴンマジックである今回のウテナの舞台は厳密には「2.5次元ミュージカル」と呼べないのですがややこしいので本項ではそう呼称します)

f:id:gothiccrown:20190704181343j:plain

 『少女革命ウテナ』は、『美少女戦士セーラームーン(1992~1997)シリーズディレクターや『輪るピングドラム(2011)ユリ熊嵐(2015)、最近だと2019年春クールに放映していた『さらざんまい』の監督を務めた幾原邦彦が、初めて原案と監督を手掛けた1997年のテレビアニメです。

 宝塚歌劇や前衛舞台を彷彿とさせる演出やモチーフ、メタファの多用、難解なストーリーと青少年の懊悩や葛藤に肉薄したテーマで話題となり、今なお根強い人気を誇っています。

 今回の「少女革命ウテナ ~深く綻ぶ黒薔薇の~」は、そんなアニメ「少女革命ウテナ」のミュージカル化の第2弾となるそうで。第1弾は「少女革命ウテナ ~白き薔薇のつぼみ~」と題して2018年3月8日~18日、CBGKシブゲキ!!で上演されました。

 その際にはアニメの1~13話にあたる「生徒会編」を脚本にしたようですが、今回はアニメ14~24話にあたる「黒薔薇編」がメインストーリーとなっています。

 

 

 

脚本をアニメと比較してみた

 アニメの「黒薔薇編」にあたるストーリーが、ミュージカル「~深く綻ぶ黒薔薇の~」としてどう脚本化されるのか、そこが今回の一番の楽しみでした。

 舞台には、御影草時の手によって100人の少年が焼死したという根室記念館を思わせる紗幕。下記記事の写真が分かりやすいので参考まで。

enterstage.jp

 登場人物全員の合唱があった後、王子に憧れるようになったウテナの生い立ち、「生徒会編」でのデュエリストとの決闘などがダイジェストで歌われます。

 ここまでがむちゃくちゃ速足なのでデュエリストたちの胸の薔薇が秒単位で散らされていくのでちょっと笑った)コレ大丈夫かなと思いましたが、御影草時と千唾馬宮が登場したあたりから各話ストーリーがしっかりと描かれてゆきます。

 以下にその流れを、アニメと比較してザッとまとめてみました。各登場人物の説明はめんどくさいのでWikipedia読んでください。

ja.wikipedia.org

 

 まずアニメ14話、鳳暁生(おおとりあきお)の婚約者である鳳香苗(おおとり かなえ)ウテナの決闘はカット。香苗は登場しません。

 根室記念館という研究施設について、薫幹(かおるみき)からウテナへ説明がなされた後、アンシーに想いを寄せる幹と、そんな双子の兄に執着する妹の薫梢(かおるこずえ)の三角関係が描かれます。

 ここであの「絶対運命黙示録」の大合唱。続く決闘はアニメ15話にあたる、薫梢との戦いです。

 次に描かれるのは、転校生・高槻枝織(たかつきしおり)と、彼女を恋慕する有栖川樹璃(ありすがわじゅり)の愛憎関係。アニメ17話にあたるストーリーで、ウテナは枝織と決闘します。

 この後にアニメ16話にあたる、桐生七実(きりゅうななみ)カウベルクリスチャンディオールの装飾品と勘違いする話が挿入されます。手拍子の似合う明るい曲調の七実のダンスと歌「幸せのカウベル」が披露され(2回も!)、観客席を大いに盛り上げました。

 アニメ18話七実に憧れる初等部の少年・石蕗美蔓(つわぶき みつる)の話や、アニメ19話ウテナの親友・篠原若葉(しのはら わかばに片想いしている風見達也(かざみ たつや)の話はカット。両者とも登場しません。

 続いて、決闘に敗れたのち退学処分を受けた西園寺莢一(さいおんじ きょういち)と、かねてより彼に想いを寄せており、彼をかくまうこととなった篠原若葉(しのはらわかばとの交流が描かれます。アニメ20話にあたるストーリーで、若葉とウテナの友情をかけた決闘には思わず見入ってしまう迫力がありました。

 アニメ21話、桐生冬芽(きりゅう とうが)に想い焦がれる苑田茎子(そのだ けいこ)恋物語もカット。なぜならこの舞台、アニメで主要キャラのひとりであった桐生冬芽が登場しないのであります。詳しくは後述。

 ここからアニメ22話にあたる回想シーンとなり、理事会から派遣された千唾時子(ちだ ときこ)に恋をした御影草時(みかげそうじ)が、決闘を仕掛ける黒幕となるまでの経緯が語られます。

 いよいよ黒薔薇編のクライマックスとなる、草時とウテナの決闘が繰り広げられます、アニメ23話にあたるシーンです。ウテナの剣の強さが、ディオスの力によるものだと草時が気が付いた瞬間、王子の姿をしたかつてのディオスの影(バックダンサーが務めてました)ウテナに加勢。3人のめくるめく剣戟がアツかったです。

 アニメ24話は総集編なので、舞台でもカットしてありました。アニメ最終回39話における、ウテナが死にアンシーが学園の外へ出る、というラストももちろんなく、ラスボス・御影草時を倒して大団円、みたいな感じで終幕です。

 

 ということでまとめると、アニメで14~24話にあたる「黒薔薇編」を、ミュージカル版では、アニメ15話→17話→16話→20話→22話→23話→23話という風にまとめてありました。

 アニメを観ていないとストーリーや設定が分かりにくいかな、とも感じましたが、そもそもアニメを観てもよく分からないような作品なので、あのウテナ特有の雰囲気を楽しめる仕上がりになっていれば十分合格なんじゃないかな、と。

 

 

 

 

アンシーの胸からマジで剣が出る

 あの耽美で前衛的な世界観をどう舞台美術として再現するかというのも、ひとつの関心事でした。その点において感動した演出を3つ、以下に書き留めておきたく。

 

 まず先述した、根室記念館を思わせる絵が描かれた紗幕について。開演前から舞台には緞帳が降りておらず、ちょうどステージを前後に二分する位置に、紗幕が下げられていました。紗幕の両脇にはステンドグラスのような模様が描かれています。開演前にはここに役者がシルエットとして浮かび上がり、例の「かしらかしら、ご存じかしら?」の台詞で有名な影絵少女として、観劇マナーのアナウンスをしてしました。

f:id:gothiccrown:20190705175541p:plain

 この紗幕は、劇中、決闘で草時がウテナに破れた瞬間に、ステージ上にバサリと落とされました。実は根室記念館は草時の記憶の残影でしかなく、とうの昔に廃墟になってしまっているのですが、この紗幕を落とす演出によって、そんな「草時の見ている根室記念館という幻が崩壊する瞬間」が暗示されるワケです。舞台世界の崩壊という演出は、芝居の一大スペクタルであり、僕なんかはテント芝居において最後に書割が取り払われて夜闇の遠方に無限に舞台が解放されていくような演出が大好きなのですが、それに似た興奮を感じました。背景を書割や造形物ではなく紗幕にした理由は、ここにもあったんですね~。

 

 もうひとつは、決闘者の「剣の湧き所」について。ウテナと言えば「世界を、革命する力を!」と叫んでアンシーの胸からディオスの剣を引き抜くシーンが有名ですが、それをどうやって舞台で再現するのか?

 いくつかの方法が見受けられたのですが、まずひとつは決闘者を演じる役者が体の脇に剣を隠しながら登場し、しかるべきシーンで表に出す方法。ふたつめに脇役やバックダンサーが剣を体の脇に隠し、しかるべきシーンで決闘者を演じる役者に手渡す方法。

 みっつめは、ステージとステージ上の壇をつなぐ階段に観客席からは見えない隙間があるようで、そこから差し出される剣を役者が受け取る方法。アンシーの胸からウテナが剣を引き抜くシーンでは、ほとんどこの方法が採用されていました。

f:id:gothiccrown:20190705022210p:plain

f:id:gothiccrown:20190705022217p:plain

 どの方法も言葉にすると非常に野暮ったく聞こえてしまいますが、観劇中は役者の歌やダンスに夢中になってその手元にほとんど視線が向かないので、相当意識して観ていない限り9割方気付けません。マジで「ウ゛ワ゛ーッ剣が湧いて出た!」てなります(なりました)。

 面白かったのは、カウベルのシーンで七実が観客席に向かって「見てないでかしづきなさい!」と命令し、観客の男性が舞台の上で本当にかしづかされていた場面。

 実はその男性、開演前に僕が指定席まで移動している最中に幾原邦彦監督の姿を見つけて「ウワ監督がいる!」と驚いていたのですが、その時に監督が談笑されていらした方だったんですよね。関係者だったのかもしれません。

 

 

 

 

どこ行ったんだ桐生冬芽

 先述でもチラと触れた通り、ウテナミュージカル第1弾「~白き薔薇のつぼみ~」では登場していたらしい桐生冬芽が、今回の「~深く綻ぶ黒薔薇の~」では何と一切登場しません。クビになったか……。

f:id:gothiccrown:20190705032541p:plain

 確かにもともとアニメの「黒薔薇編」でも、桐生冬芽の登場はほとんどありませんウテナに決闘で敗北したショックから引きこもりと化している)。冬芽が唯一ちょっとだけ絡んでくるアニメ21話にあたるストーリーも、舞台ではまるまるカットされているので出る幕ナシです。もう何か冬芽を登場させたら話がややこしくなるから今回の舞台では存在自体抹消しようみたいになったんでしょうね。妹である桐生七実の存在がちょっと宙に浮いた感じにはなってましたが、脚本的には正しかったと思います……。

 でも一応、アニメ1話~13話の「白薔薇編」で生徒会長として異色の存在を放った主要キャラクターですよ。ウテナとの決闘に敗れた後は彼女への初恋に気が付いて「ウテナを棺から出す」ために尽力する男ですよ。ウテナが死んで皆から忘れ去られてしまっても、アンシーとたったふたり、ウテナのことを覚えてくれている人ですよ。ましてや劇場版『アドゥレセンス黙示録』ウテナには劇場版もあります)では実は幼少期にウテナを救って命を落とした王子様だった、というむちゃくちゃ重要ポジション設定なんですよ。

 アニメ、映画の視聴者としては、冬芽はそんなこんなでひとりのキーパーソン的なイメージがこびりついていたので、一転して今回の舞台には終始一貫登場しない清さ(?)に思わずズッこけました。最後の最後まで「出るか!?出るよな!?」ってちょっと期待もしてたんですけど。まァ出なかったよね!

 

 

 

 

幾原邦彦×奥井雅美トークショー

 アナウンスがあるまで全然知らなかったのですが、終演後にアニメ版、劇場版ウテナの監督を務めた幾原邦彦さんと、ウテナのオープニング主題歌を歌った奥井雅美さんのトークショーがありました(おふたりはこのトークショーが20年ぶりの再会だったらしい)ウテナ役の能條愛未さん、アンシー役の山内優花さん、七実役の鈴木亜里紗さんを加え、和気あいあいとした雰囲気で始まるトーク

 

 質問その1は「ミュージカルはいかがでしたか?」というもの。

 幾原監督も奥井さんも高評価されていましたが、監督が「アニメ版のキャラクターに声が似ている」と仰っていたのには、僕も同意でした。声音からキャラづくりをしているな、という印象をメインキャストたちには強く感じました。特に山内優花さんが演じられたアンシーの、あの優しいのに冷たい声音なんかもうそのまんますぎて鳥肌でしたアワワ……。

 

 質問その2は「オープニング曲に込めた思いや、制作秘話を聞かせてください」というもの。

 こういうタイアップ曲というはアニメがまだ企画の段階、つまりテーマやストーリーが煮詰まっていない状態で作曲しなければならないのが殆どなのですが、ウテナのオープニング曲「輪舞-revolution」も同じ状況で作られたとのこと。奥井さんは初めスキャット(歌詞のない鼻歌みたいな口ずさみ)を収録したデモテープを監督に提出し、メロディーに関してはそのままOKが出たということです。監督はこのスキャットが印象的だったため、ウテナのアニメ最終回において、その撮り直しをBGMに採用したらしい。のちほど歌詞をつけた際に、監督から「薔薇」「校庭」というワードを入れてほしいと直しがあり、奥井さんは「薔薇」はそのまま、「校庭」は「ガーデン」として歌詞に組み込んだそうです。

 あと感動したのが、「輪舞-revolution」の開始3:00前後、ちょうど間奏のクラリネットが入る直前で、奥井さんが何か喋っている声が聞こえるのですが、これが監督には「いつか一緒に輝いて」と聞こえたそうで(確かにそう言われるとそうとしか聞こえない)。何とアニメ最終回39話のタイトル「いつか一緒に輝いて」というのはここから来ているそうです。ウワ~マジか~……。ちょっとこれには目から鱗でその後しばらく感動にうち震えてました。

 

 実はこの日の公演には、ウテナの漫画をてがけたさいとうちほ先生もいらっしゃっており。先日の6月29日が先生のお誕生日だったそうで、監督からのご紹介もあり、観客席皆拍手。(おめでとうございました!)

 監督、漫画の作者、オープニング曲の作者3人が集った超ありがたい空間でした(拝)

 

 

 

 

「鳳暁生編」「黙示録編」も期待

 ということで、個人的には初めての2.5次元ミュージカルの観劇経験となったのですが。難解な世界観や設定の解説をできるだけ省き、人間関係とそこから広がるストーリーにフォーカスを当てた脚本は、「芝居」ではなく「ミュージカル」として秀逸だなァと。また役者たちの原作へのリスペクトや、観客たちのウテナ愛を強く感じて、そうした作品によって人々が一体となるような特異な空間は2.5次元ならではなのかなァ、と新鮮に思いました。

 千秋楽はrakutenTVでも配信されるそうなので、舞台に足を運べない方もゼヒ。

musicalutena.sblo.jp

 

  まだアニメ25~33話にあたる「鳳暁生編」、34~39話にあたる「黙示録編」が残っているので……。来年あたりに続く舞台化がなされないかな、とちょっぴり期待しています。

 


ミュージカル『少女革命ウテナ~深く綻ぶ黒薔薇の~』公開ゲネプロ丨エンタステージ

musical-utena.com

twitter.com