『ミッドサマー』のルーン文字を歴史と言語学観点からガチ調べした【後編】
前回まとめたルーン文字についての知識をもとに、今回は『ミッドサマー』に登場するルーン文字を解説していきたいと思います。
北欧型ルーンとアングロ・サクソン型ルーンの違い、ルーン文字の想起語的意味とルーンリーディングの違い、などの前知識がない方は、【前編】ですべて解説していますので、先にそちらをご覧いただくことをオススメします。
すでに『ミッドサマー』に登場するルーン文字の解説はたくさんありますが、そのほとんどが「このモチーフにはこの字とこの字が書かれていて……」というモチーフごとの紹介で、なぜそんなルーンリーディングになるのか?とか言語学的観点から見たルーンのもともとの意味(想起語)がわかりません。
ので、本ブログではモチーフ単位ではなく文字単位での紹介をしていきたいと思います。どの文字がどこにいくつ登場しているのかがこれでわかるかと。ただし登場回数は見落としがあるかもしれないので、多いか少ないかという雰囲気をとらえるにとどめていただけると幸いです。
紹介順はフサルクの順番に沿っています。文字が見にくいときは画像クリックで拡大してご覧ください。
- 【ᚠ】fehu:富
- 【ᚢ】ūruz:試練
- 【ᚫ】ansuz:言葉
- 【ᚱ】raidō:旅
- 【ᚲ】kaun? kenaz?
- 【X】gebō:贈りもの
- 【ᚹ】wunjō:幸運
- 【ᛀ】naudiz:宿命
- 【ᛁ】īsa:氷
- 【ᛇ】ehwaz:生と死
- 【ᛈ】perth:秘密
- 【ᛉ】algiz:守護 または【ᛣ】kalc:聖杯
- 【ᛋ】sōwilō:栄光
- 【ᛏ】tīwaz:戦士
- 【ᛖ】ehwaz:可動性
- 【ᛗ】mannaz:人間
- 【ᛚ】laguz:内面
- 【ᛟ】ōthila:土地
- 【ᛞ】dagaz:啓発
- 【ᚸ】gār:槍
- わからなかった謎ルーン
- まとめ
【ᚠ】fehu:富
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | f |
名称 | Fehu(フェフ) |
意味(想起語) | 富、財産 |
ルーンリーディング | 富裕、繁栄 |
備考 | 英語feeの語源 |
登場箇所はメイポール、ペレが着ている服の刺繍、寝室の壁画、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。
ペレは、メイクイーンとなるダニーと生贄となる男たちをホルガ村に連れて来た、いわば富をもたらした人物なので、胸元にfehuの刺繍があるのも納得です。
【ᚢ】ūruz:試練
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | u |
名称 | ūruz(ウルズ) |
意味(想起語) | 野牛 |
ルーンリーディング | 試練、挑戦 |
登場箇所は、シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。
【ᚫ】ansuz:言葉
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | a |
名称 | ansuz(アンスズ) |
意味(想起語) | 言葉、知識、それをつかさどる神(オーディン) |
ルーンリーディング | コミュニケーション、神聖な伝承 |
備考 | 英語のanswerにあたる |
登場箇所は、長老シフの服の刺繍、寝室の壁画、シフとクリスチャンが面会した小屋のフェンスと、小屋の中の壁画。
言葉や神(特にそれをつかさどるオーディン)のお告げを表すルーンなので、村の長老であり祭の司祭でもあるシフの胸元に刺繍されているのでしょう。
【ᚱ】raidō:旅
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | r |
名称 | raidō(ライドー) |
意味(想起語) | 騎乗 |
ルーンリーディング | 旅、進化 |
備考 | 英語rideと同語源 |
『ミッドサマー』に一番多く登場するルーン文字ではないでしょうか。登場箇所はメイポール、アッテストゥーパが行われた崖の上にある石板、寝室の壁画、初めての食事の時のテーブル配置、生贄を選ぶクジの玉、ダニーの服の刺繍、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。
メイポールは先述の【ᚠ】fehuと合わせると、「より多くの恵みへの出立」といった意味が込められているのでしょう。
なおダニーの服の【ᚱ】raidōだけ、左右が反転しています。ルーンが反転すると、呪術上では負の意味を帯びることが多いようです。公式サイトのネタバレページには「この反転した【ᚱ】raidōは不和、妄想、死を暗示している」との記載がありますが、「旅」が反転するとそんな意味になるとはとても考えられません。テキトーなこと言ってんじゃないよと思わんでもない。まァ呪術上の意味というのは占う人の主観によるところが多いので、正解不正解があるものではないのですが。
【ᚲ】kaun? kenaz?
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | k, c |
名称 | 不明。kaun, kaunan, kenazと言われている。 |
意味(想起語) | kaun=腫れもの、あるいはkenaz=松明か。 |
ルーンリーディング | ともしび、熱量、知恵 |
登場箇所は、ホルガ村の女性が着ている服の刺繍、寝室の壁画、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。村の女性の胸元にあるのは、ダニーを案内してくれるこの女性のあたたかさみたいなのを示しているのかな?
壁画の【ᚲ】kaunは後述の【ᛈ】perthに見えなくもないですが、上下末端から右へ伸びている短い曲線は装飾的なもので、文字自体は【ᚲ】kaunだろうと思います。
【X】gebō:贈りもの
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | g |
名称 | gebō(ゲボ) |
意味(想起語) | 贈りもの |
ルーンリーディング | 贈りもの、捧げもの(犠牲) |
備考 | 英語のgiveと同語源 |
登場箇所は、アッテストゥーパが行われた崖の上にある石板、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。石板は、神へ命を返す儀式の場に建っているものなので、神への捧げものというニュアンスで書かれているのでしょう。
小屋の壁画は、装飾部分が結合したように見える【X】gebōかなと思いつつ、90度傾けられた後述の【ᛞ】dagazのようにも見えるので、ちょっと微妙なところです。
【ᚹ】wunjō:幸運
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | w |
名称 | wunjō(ウンジョ) |
意味(想起語) | 喜び |
ルーンリーディング | 幸運、満足 |
登場箇所は、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。エッ、良い意味のルーンなのに登場ここだけ???
【ᛀ】naudiz:宿命
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | n |
名称 | naudiz(ナウディズ) |
意味(想起語) | 欠乏、必要性 |
ルーンリーディング | 苦難、宿命 |
備考 | 英語needと同語源 |
登場箇所は、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。
先述の【ᚠ】fehu(富)と、【ᚢ】ūruz(試練)、【ᚱ】raidō(旅)と合わせると、この4文字のブロックは、「繁栄への道のりには試練にいどむことが宿命づけられている」といったニュアンスにとれそうです。
【ᛁ】īsa:氷
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | i |
名称 | īsa(イサ) |
意味(想起語) | 氷 |
ルーンリーディング | 冷たさ、凝縮、再生 |
備考 | 英語iceの語源 |
登場箇所は、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画、ダニーがメイクイーンに選ばれた時のテーブルの配置。
ホルガ村の食卓の並べ方はすべてルーン文字になっているので、この時のテーブルもただ長く並べたのではなく、【ᛁ】īsaを示しているのだと思います。天板が氷のように鏡張りになっているのも印象的です。メイクイーンとなったダニーが、冷たく生まれ変わったようなニュアンスがこめられているのかな。
【ᛇ】ehwaz:生と死
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | i |
名称 | ehwaz(エイワズ) |
意味(想起語) | イチイの木 |
ルーンリーディング | うつろい、生と死、再生 |
備考 | 英語yewの語源 |
生贄を捧げる小屋の扉の、内側のフレームが【ᛇ】ehwazになっている、という考察記事を見つけました。若干こじつけっぽい気もするのですが、扉が開かれる時――それは生贄を運び入れる時で、扉が閉じられる時――それは生贄が燃やされて死ぬ時、と考えると、まさに生と死を表す【ᛇ】ehwazそのものだなァと思い、面白かったので紹介しておきます。
【ᛈ】perth:秘密
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | p |
名称 | perth(パース) |
意味(想起語) | 不明。ナシの木かと言われる。 |
ルーンリーディング | 賭け、秘密、神の手 |
備考 | 英語yewの語源 |
登場箇所は、アッテストゥーパが行われた崖の上にある石板、寝室の壁画、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画、生贄を選ぶクジの玉。
運まかせの賭け事といった意味合いもありますが、ここでは神のみぞ知る秘密といったニュアンスでとった方がイイでしょう。
【ᛉ】algiz:守護 または【ᛣ】kalc:聖杯
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | z |
名称 | algiz(アルジズ) |
意味(想起語) | 盾 |
ルーンリーディング | 保護 |
文字体系 | アングロサクソン型ルーン |
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ラテン文字転写 | k |
名称 | kalc(カルク) |
意味(想起語) | 聖爵、聖杯 |
ルーンリーディング | algizと混同するため占いには殆ど使われない。 |
登場箇所は、 アッテストゥーパが行われた崖の上にある石板、アッテストゥーパの生贄であるおばあさんの服の前身頃、クリスチャンの服の刺繍、寝室の壁画、マヤ初登場のシーンで彼女が開ける小屋の扉。
『ミッドサマー』に出て来る【ᛉ】algizはどれも上下が反転しています。倒立したルーン文字は呪術上ではダークな意味合いを持つので、「神の守護が失われた状態」を表すために書かれている、と取れなくもないのですが、あまりにすべての文字が反転しているので、これは古北欧型ルーンではなくアングロサクソン型ルーンの【ᛣ】kalcではないか?と思い、疑問として残しておきます。(両者の違いがわからない方は前編へ)
【ᛣ】kalcは、古フリジア語や古英語の発音をより正確に表記するため追加されたルーン文字のひとつです。それまでは先述の【ᚲ】kaunが「k」と「c」の音を兼ねていたため、両者を区別するために、【ᚲ】kaunの音価を「c」とし、【ᛣ】kalcを「k」としたようです。
【ᛣ】kalcの意味は「聖爵、聖杯(chalice)」。キリスト教圏において、キリストの聖体をいただくため、葡萄酒とパンを入れるあの容器です。「ホルガ村の宗教の下敷きには北欧神話がある」という考察を以前しているので、そこに「聖杯」というキリスト教のモチーフを持ってくるだろうか?という疑問は残ります。が、【ᛣ】kalcも聖体拝領といういわば神とのつながりを意味する文字であることは事実なので、例えば上記のおばあさんの服は、倒立した【ᛉ】algizの場合は「神に護られる者ではなくなった(ので生贄として死ぬ)」とも、【ᛣ】kalcの場合は「神からいただいた、神と血肉を同じくするもの(なので適齢になった今、神のもとへ血肉を返す)」とも取れて、どちらの可能性も捨てきれないワケです。
クリスチャンの服の刺繍なんかは、神にも見限られたクズ野郎として倒立した【ᛉ】algizと見てもイイかもしれませんが、反対にマヤが出てくる小屋の扉の文字は、儀式の場所でもない生活空間にそんなダークなルーン文字を大量に彫刻するだろうか?という疑問が浮かび、【ᛣ】kalcと考えた方が自然な気がします。どちらか片方が正解、ではなく、両方が混在している可能性もありますね。
※なお古北欧型より後世の、北欧型の長枝型ルーン(デンマーク型ルーン)にも同じ形【ᛣ】の文字が出現し、この場合は音価が「r」となるのですが、『ミッドサマー』にはこの体系のルーンは他に登場しないので、たぶん作中の【ᛣ】は古北欧型かアングロサクソン型として書かれているかな、と思います。
【ᛋ】sōwilō:栄光
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | s |
名称 | sōwilō(ソウィロ) |
意味(想起語) | 太陽 |
ルーンリーディング | 輝き、栄光、エネルギー |
これは微妙です。登場箇所は、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。両辺の長さから先述の【ᛇ】ehwazではないことはわかりますが、【ᛋ】sōwilōだったとして、なぜこのルーン文字だけこんな向きがヘンテコなんでしょうか。左右が反転させられているだけでなく、反転した上で左に45度ほどかたむけられています。製作陣がテキトーに書いただけと思わなくもない……。
【ᛏ】tīwaz:戦士
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | t |
名称 | tīwaz(ティワズ) |
意味(想起語) | 北欧の軍神テュール |
ルーンリーディング | 男性性、戦士、勇敢 |
登場箇所は、 アッテストゥーパが行われた崖の上にある石板、クリスチャンの服の刺繍、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画、寝室の壁画。
ちなみにマヤが開ける小屋の扉の赤マルした箇所も、上下反転した【ᛏ】tīwazがふたつ並べられているように見えなくもありませんが、青マルした箇所が上下反転した【ᛉ】algiz(または正位置の【ᛣ】kalc)と【ᛚ】laguz(後述)の組み合わせなので、赤マル部分もそれと同じで反転した【ᛏ】tīwazとは異なるかな、と思います。
【ᛖ】ehwaz:可動性
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | e |
名称 | ehwaz(エイワズ) |
意味(想起語) | 馬 |
ルーンリーディング | 可動性、旅 |
登場箇所は、 寝室の壁画。
上下が反転しているので、可動性が失われた限界のような意味を示しているのだと思います。が、この人物画の胸元、古北欧型とアングロサクソン型とルーン・ガルドゥルのようなよく分からないルーン文字で構成されていて、深い意味はなく製作陣がテキトーに書いたように見えなくもない。
【ᛗ】mannaz:人間
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | m |
名称 | mannaz(マンナズ) |
意味(想起語) | 人間 |
ルーンリーディング | 人の能力、才能、愛 |
備考 | 英語のmanにあたる |
登場箇所は、埋められたジョシュの足裏、皮だけになったマークが着せられている服。ただしどちらも上下反転しています。
ジョシュはダメって言われてるのに聖書を盗撮して、マークは先祖代々大切にされてきた木に小便をひっかけて村人の怒りをかいこんな有様になったワケで、「人間」を表す【ᛗ】mannazが反転しているのは、「人間失格」的な意味がこめられているからなんでしょう。ホルガ村の人怒らせちゃダメ、ゼッタイ。
【ᛚ】laguz:内面
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | l |
名称 | laguz(ラグズ) |
意味(想起語) | 水 |
ルーンリーディング | 女性性、内面 |
備考 | 英語lakeと同語源 |
登場箇所は、 寝室の壁画、マヤ初登場のシーンで彼女が開ける小屋の扉。
扉のルーンは、上下反転した【ᛉ】algiz、または正位置の【ᛣ】kalcを【ᛚ】laguzで囲んでいます。上下反転した【ᛉ】algizの場合は、「神の守護が失われた内面」といったニュアンスになりそうですが、そんなルーン文字を扉に書くか?という疑問が浮かぶいので、正位置の【ᛣ】kalcを囲んで「内なる聖杯」的な意味を持たせてる、と見た方がイイ気がします。でも内なる聖杯って何だよ。
【ᛟ】ōthila:土地
文字体系 | 古北欧型ルーン |
---|---|
ラテン文字転写 | o |
名称 | ōthila(オシラ) |
意味(想起語) | 土地 |
ルーンリーディング | 故郷、財産 |
登場箇所は、寝室の壁画、アッテストゥーパ前のテーブルの配置。
画像1枚目のルーンは、左に先述の【ᛈ】perthも書かれていて、「神のみぞ知る秘密の地」、つまり天国や楽園といった意味合いになりそう。アリ・アスター監督と役者のオフショットである3枚目の画像に映っているルーンも、どちらも【ᚱ】raidōとセットになっていて、神の地への旅、といった意味がこめられてそうです。
アッテストゥーパで生贄となる老人ふたりが主席に座る食事シーンの、テーブルの全体像が映っている場面がないのですが、映画を観るとこのテーブルも【ᛟ】ōthilaを描くよう並べられていることがわかります。
【ᛞ】dagaz:啓発
文字体系 | 古北欧型ルーン |
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ラテン文字転写 | d |
名称 | dagaz(ダガズ) |
意味(想起語) | 一日、昼間 |
ルーンリーディング | 神の祝福、啓発 |
備考 | 英語dayの語源 |
登場箇所は、ダニーの服の刺繍、寝室の壁画、皮だけになったマークが着せられている服、長老シフとクリスチャンが面会した小屋の壁画。小屋の壁画は、装飾部分が結合したように見える【X】gebōの可能性もあるので微妙ですが。
これも、いずれも90度かたむいているのが気になります。 公式のネタバレページには「逆にしても同じ意味」なんて書いてありますが根拠がわかりません。だいたいこの公式ページ、小林真理さんという映画評論家(東大の教授とは別人ぽい)が書いているようですが、参考文献が全部ニュースサイトと個人ブログで信憑性がビミョすぎる、参考「文献」でも何でもないでしょ。普通に考えたら、「夜」だとか「愚蒙」みたいな意味になりそうですが。
【ᚸ】gār:槍
文字体系 | アングロサクソン型ルーン |
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ラテン文字転写 | g |
名称 | gar(ガー) |
意味(想起語) | 槍(グングニル) |
ルーンリーディング | 占いにはあまり使わない。 |
これも発音をより正確に表記するために追加された、後世のルーン文字のひとつです。中英語にはかつて、古英語の「g」から音韻変化した「Ȝ(Yogh、ヨッホ、ヨッグ)」という文字とそれに相当する音価がありました。ルーンでもそれを表記するために、【X】gebōはとりあえず「g」とも「Ȝ」とも読めるとして、【ᚸ】gārは「g」とする、とハッキリ区別できるようにしたようです。
登場箇所は、寝室の壁画、生贄小屋の壁画。北欧神話における槍は、チート武器グングニルを持つ最高神オーディンのシンボルでもあり、『ミッドサマー』ではオーディンに生贄をささげる、という意味で配されているように思います。
わからなかった謎ルーン
最後に、調べに調べてもわからなかった謎ルーンを紹介して、判断はインターネッツの集合知にゆだねたいと思います。まずひとつめは、サボテンみたいな形をしたコレ。
ルーンにこんな文字ないはずなんですが、ダン爺さんの服の前身頃にデカデカと書いてあるくらいだから、重要な意味を持っているんでしょう。「治癒を意味する」というネットの書き込みを目にしましたが、信憑性は皆無です。
ふたつめは八芒星みたいなコレ。「豊穣」を意味する【ᛜ】ingwazをふたつ組み合わせた形のようにも見えます。
みっつめはもはやルーン文字に見えないコレ。一瞬絵なのかな?と疑いましたが、左には装飾された【ᛟ】ōthilaがあるし、それと同じような筆致で書かれているので、多分コレも文字なのでしょう、多分。
いずれも結合ルーン、あるいはルーン・ガルドゥルの一種なのだとは思います。前編で紹介したアィイスヒャウルムルだとかヘルスルスタヴルだとか、決まった組み合わせもあることにはあるのですが、そうしたものはもう呪術の世界になってしまうので、「このルーンをこう組み合わせて、こういう意味を持たせる!」みたいなアレンジはぶっちゃけ作ったモン勝ちみたいなところがある。ので、ホルガ村の、あるいは製作陣のオリジナルルーンなのかもしれません。
まとめ
以上、『ミッドサマー』のルーン文字ガチ調べ、後編でした。 登場するほとんどのルーンは古北欧型ですが、全24文字ある中で確認できなかったのは【ᚺ】hagalaz、【ᛃ】jēra、【ᛒ】berkanan、【ᛜ】ingwazの4文字でした。古北欧型だけでなくアングロサクソン型やルーン・ガルドゥル(?)まで出てくるので、ルーンの勉強には『ミッドサマー』を観ればイイんじゃないかな。